はじめに
借り上げ社宅は企業が契約している物件ですが、従業員が退職する際に、その物件に住み続けたいという申し出を受けることがあります。このような状況で気になるのが、借り上げ社宅の契約名義の変更手続きではないでしょうか。名義変更とだけ聞くと簡単なように思えますが、実際のプロセスは複雑で、トラブルになるケースもあるため注意が必要です。
この記事では、社宅の法人契約を個人契約へ変更する手順や、社名変更手続きとの違いについて詳しく解説します。社宅の名義変更の流れや注意点を確認したい方はぜひ参考にしてください。
契約者の変更が必要になるケースとは
社宅の契約者を変更するケースには、「法人から個人へ」「個人から法人へ」「法人から法人へ」など、いくつかのパターンがあります。特に、社宅管理者として関わることが多いのは、社宅の契約者を法人から個人へ変更するケースです。
本記事では、作業として書類上の契約者の名前を入れ替えることだけではなく、原則として既存の契約者による契約を解約し、新規の契約者と改めて契約をし直すことを「契約者の変更」として解説します。
それでは、契約者の変更が必要になる3つのパターンについて、詳しく見ていきましょう。
法人契約から個人契約に変更する
借り上げ社宅の名義変更が必要となるケースで、もっとも多いのが法人契約から個人契約への変更です。
社宅に入居している従業員が、退職や出向先への転籍、社宅の使用期限満了などの事情により社宅を退去しなければならないときに、従業員が入居継続を希望するケースがあります。こうした場合に、可能であれば、社宅の法人契約を個人名義へ変更する手続きを進めます。
個人契約から法人契約に変更する
新たに雇用する従業員の住居が適用対象となるケースや、企業の福利厚生が変わって社宅制度を利用できるようになった場合には、個人契約から法人契約に変更するパターンが起こります。いずれも、従業員が個人で契約している物件を法人契約に切り替える作業を行うことで、従業員は転居せずに社宅利用が可能となります。
法人契約から別の法人契約に変更する
中途採用で入職してくる従業員が前職で借り上げ社宅を利用しており、自社へ入社後も今の住居のまま社宅制度を利用したいと希望している場合は、法人契約から法人契約への変更が必要です。
また、会社分割や事業譲渡、合併などによって企業の名義が変わるケースもあります。ただしこの場合は、名義変更ではなく、社名変更通知という手続きで済ませることがほとんどです。
このように借り上げ社宅の契約者の変更には複数のパターンがあります。対応する事例がどのパターンにあたるのかを把握して手続きを進めましょう。
借り上げ社宅を個人契約に変更することはできるのか
企業名義の借り上げ社宅を個人の名義に変更するには、企業と従業員、貸主の間で相談をする必要がありますが、個人契約への切り替えの合意を得られれば、変更は可能です。
借り上げ社宅を個人契約に変更する場合は、前述したパターンの中では、法人契約から個人契約に変更するケースに該当します。手続きの際は、企業が契約を解約し、個人が改めて契約をする流れが一般的です。
契約書類上の名義を変更するだけで手続きできるかどうかは、貸主によって異なります。ただし書類上の名義変更だけだと、敷金の返還先や原状回復費用の負担が誰になるのか分からなくなるなどのトラブルが起こりかねません。このようなトラブルを避けるためにも、手続きは慎重に進めましょう。
社名のみ変更する場合の対応
借り上げ社宅として物件を契約している期間中に、企業の社名が変更(以下、商号変更)されるケースもあります。この場合の手続きは個人契約への切り替えとは異なるため、ここで確認しておきましょう。
商号変更の場合、契約をしている企業の実体は、変更前も変更後も変わりません。しかし、企業そのものは変わらないからと、名義変更を行わずにそのままにしておくと、契約を強制的に終了されてしまう懸念があります。企業の社名変更が決まったら、早めに貸主へ商号変更の通知をしましょう。企業名の変更を証明する書類を提出し、契約変更に関連する書類を交わすようにしてください。
貸主や管理会社によっては、商号変更に伴って契約事務手数料を請求されたり、再度契約するように求められたりすることがあります。商号変更の際は、費用の発生や再契約の可能性も念頭に置いておきましょう。
借り上げ社宅を個人契約に変更する手続きと流れ
借り上げ社宅を個人契約に変更する手続きは、現在入居している従業員が主体となって進めるのが一般的です。その際、従業員からさまざまな問い合わせがあるかもしれません。また、手続きの一部を企業が代行することもあるため、社宅担当者は手続きの内容や流れを把握しておくと安心です。ここで詳しく解説します。
1.担当部署に相談する
名義変更を希望する従業員が、社宅管理規定において、借り上げ社宅の法人契約を個人契約に切り替えられるかどうか、担当部署に確認しに来ます。規定上、名義の変更ができなかったり、すでに次の入居者が決まっていたりする場合は、個人契約への切り替えができないため、理由とともに従業員に伝えましょう。
特段の理由がなく、規定上も切り替えが可能であれば、手続きに必要な書類などの準備に移ります。
2.管理会社や貸主に確認する
企業の社宅管理規定や次の入居者などに問題がなければ、従業員が管理会社や貸主などへ契約切り替えの可否を確認します。ただし、法人契約のみを希望しているなど、事情がある貸主からは個人契約への切り替えを断られるかもしれません。個人契約ができないと、名義変更を希望する従業員は別の住まいを探す必要があるため、早めに可否を確認するよう促しましょう。
3.法人契約を解除して個人契約を締結する
企業と貸主、いずれも契約変更が可能となったら、法人契約を解約し、個人契約を結ぶ手続きを進めましょう。
借り上げ社宅として利用している間は、企業が貸主から物件を借り、それを従業員へ貸し出しています。しかし、個人名義の契約への変更となると、貸主から個人が直接、物件を借りることになるため、新規の契約として改めて入居審査や書類の提出が必要です。商号変更に伴う名義変更の手続きとは、この点が大きく異なります。
改めて契約を交わすには、従業員が年収などの証明書や申込書類を出して、家賃の支払い能力があるかどうかの審査を受ける必要があります。さらに、住民票などの必要書類を提出し、個人契約を締結します。審査の結果によっては入居が認められないため、事前に懸念点として従業員へ伝えておくとよいでしょう。
かかる期間や費用
名義変更の手続きには1か月程度の期間が必要な場合があります。切り替えの時期は「1日付」が一般的です。たとえば、3月31日までは法人契約、4月1日から個人契約へ切り替えといった形になります。ただし、管理会社や貸主によっては切り替え時期が異なる場合もあるため、確認しておきましょう。
従業員側に発生する費用は、通常の賃貸借契約時に必要となる金額相当がかかります。一般的に、物件の賃料の4~5か月分が発生するケースが多いようです。かかる費用の内訳の例は下記のとおりです。
- 敷金 家賃の1~2か月分
- 名義変更手数料 家賃の1か月分+消費税
- 保証会社の保証料 家賃の1か月分
- 前払い賃料 1か月分
借り上げ社宅を個人名義へ変更する際は、思った以上に期間や費用がかかる場合があります。特に企業としては、契約解除となる日付によっては従業員の雇用期間とズレたり、日割り家賃が発生することもあるため、きちんと把握しておくようにしましょう。
手続きに必要な書類
社宅の名義変更の手続きに必要な書類は、基本的に契約者となる従業員が用意します。よく求められている書類の例は下記のとおりです。
- 顔写真付きの身分証明書
- 住民票や運転免許証などの身分証のコピー
- 年収などの情報が記載された書類 など
書類内容に不備があると、契約変更の希望日までに手続きが終わらない可能性があり、契約解除日にも影響が出る可能性があります。名義変更手続きは、基本的に従業員が対応することが多いですが、契約が切り替わるまでは進捗を確認しておくと安心です。
借り上げ社宅を個人契約に変更する場合の5つの注意点
借り上げ社宅を個人契約に変更する際は、後々のトラブルを防ぐために注意すべき項目があります。特に敷金や礼金、原状回復費用などの費用が発生する部分は、揉めごとになりやすい要素です。
ここで詳細を確認し、事前に社宅管理規定に盛り込んでおきましょう。
1.時間に余裕をもって準備をすすめる
借り上げ社宅を個人契約に変更する際は、時間に余裕をもって準備を進めるように心がけましょう。
個人契約への切り替えには、企業と従業員、物件の貸主の間で、何度も連絡や交渉が発生します。迅速な対応が必要な場合もありますが、交渉に際しては時間をかけて丁寧に対応しなければならない場面もあるでしょう。
個人契約に必要な書類の準備にも時間が必要です。さらに入居審査の結果によっては、個人名義への変更が不可となる可能性もあります。こうなると、従業員には別の物件を探してもらわなければなりません。
手続きが間に合わなかったという事態にならないよう、余裕のあるスケジュールを組んで進めるよう伝えておきましょう。
2.敷金や礼金の取り扱いを確認する
法人契約となっている借り上げ社宅の敷金は、企業が貸主へ預けているのが一般的です。個人契約に切り替える際は、この敷金は企業へ返却され、これから契約者となる従業員が新たに預ける手続きをしなければなりません。手続きは、個人が貸主へ敷金を納めたあと、貸主から企業へ預けていた敷金を返還する、という順序が一般的です。
一方で、敷金の返還を貸主へ求める権利(敷金返還請求権)を、企業から個人へ移譲するケースもあります。これには企業と従業員間だけでなく、貸主との合意が必要です。
また、従業員が契約し直す際、新たに締結する契約内容に従って礼金が発生する場合があります。
敷金や礼金の取り扱いはケースバイケースのため、トラブルにならないよう、あらかじめ社宅管理規定で定めておきましょう。
3.原状回復費用の負担について決めておく
社宅を法人契約から個人契約へ変更後、個人契約を解約して退去するとなったときにトラブルとなりやすいのが原状回復費用です。借り上げ社宅は一般的に、法人契約を解約する際、住居の状態を確認し原状回復に必要な費用を敷金から精算します。しかし法人契約から個人契約へ変更する場合は、住人が変わらず家具なども置いたまま継続して入居するケースがほとんど。住居の状態のチェックは現実的ではありません。
そのため、最終的に退去した後に原状回復費用を精算することが多く、法人契約期間の原状回復費用は、個人契約の期間分と合算され、個人が全額負担するというパターンがほとんどです。
原状回復費用の取り扱いを事前に取り決めておかないと、将来、個人契約を解約するときになって揉めることになってしまうかもしれません。一部を企業が負担するのか、全額個人負担とするのかを決め、社宅管理規定に記載しておきましょう。
原状回復費用を含む、社宅の退去費用については、以下の記事で詳しく解説しています。
>>社宅の退去費用は会社と入居者どちらが支払う?相場もご紹介!
4.仲介手数料の支払いがあるかを確認する
借り上げ社宅の法人契約が貸主との直接契約となっている場合は、仲介手数料は必要ありません。一方で、管理会社を介した契約となっている場合は、個人契約への切り替え時に仲介手数料が発生するケースがあります。法人契約の契約書に記載がある場合もあるため、確認を求められた際は契約書を見てみましょう。
5.火災保険や保証会社への加入をおこなう
法人名義の社宅が火災保険に加入している場合は、個人契約へ変更した際、新たに個人の名義で火災保険に入る必要があります。また、連帯保証人を求められる代わりに、保証会社への加入が必要となることも珍しくありません。保証会社への加入には別途保証料が必要で、金額は保証会社によって異なります。名義変更を希望する従業員には、火災保険や保証会社への加入の有無を前もって伝えておきましょう。
社宅関連の煩雑な手続きは社宅代行サービスへ
借り上げ社宅を個人契約に変更する際、社宅担当者は下記のような手続きをする必要があります。
- 契約変更の可否の確認
- 従業員や貸主との協議
- 敷金や礼金、原状回復費用などの取り決め
さらに、企業と従業員の間での取り決めを明確にするため、社宅管理規定を作成しておくことも重要です。しかし、通常の業務と並行してこれらの手続きを進めるのは簡単ではありません。
このような煩雑な手続きを効率化するには、社宅代行サービスを利用しましょう。
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社宅関連の煩雑な手続きにお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ
借り上げ社宅を個人契約に変更したいという従業員の申し出は、珍しいことではありません。契約者の変更は単なる名義変更ではなく、新たに契約をしなければならない場合が多く、さまざまな手続きが必要です。
特に敷金や礼金などの費用面に関しては、後になってトラブルになるケースがあります。事前にそのルールを社宅管理規定へ盛り込んでおきましょう。時間に余裕を持って手続きを進めつつ、齟齬がないよう、貸主や従業員との確認を徹底することも大切です。