はじめに
福利厚生を充実させることで、従業員の企業への満足度を高め、優秀な人材の確保や離職の回避を図っている企業も多いのではないでしょうか。従業員の住居費用を企業がサポートする「住宅手当」も福利厚生の1つですが、住宅手当が最善の選択肢とは限りません。
この記事では、すでに住宅手当を導入済で廃止を検討されている企業もしくは新規導入を悩んでいる企業に向けて、住宅手当の実態や住宅手当を廃止する際の注意点、代替案などについて紹介します。
住宅手当を廃止する企業は多い傾向。その理由とは?
少子化によって労働人口が減少傾向にある昨今では、優秀な人材を確保することが困難になりつつあります。そのため、給与といった基本的な雇用条件の改善や福利厚生を充実させることで、優秀な人材の確保や離職の回避を図る企業が増えています。
福利厚生の一環として、従業員の住居費用の一部を企業が負担する住宅手当を導入する企業も増えましたが、昨今は以下のように住宅手当を廃止する企業が増えているのが実態です。
調査年 | 住宅手当の支給状況 |
---|---|
平成29年 | 41.3% |
平成30年 | 40.4% |
令和元年 | 40.2% |
令和2年 | 34.4% |
令和3年 | 37.8% |
住宅手当を廃止する企業が増えている理由として、以下の3つが挙げられます。
- ライフスタイルの多様化
- 働き方改革
- コストカット
それぞれの理由を詳しく見ていきましょう。
理由1 ライフスタイルの多様化
昨今は職種や働き方の多様化が進んでいます。これまでは日勤や夜勤といったような働き方が通常でしたが、フレックスタイムのように従業員が自由に就業時間を決定するという働き方も増えました。
また、コロナ禍において自宅で勤務するテレワークも普及したことで、電気代や通信費などの補助を希望する従業員も増えており、住宅手当が従業員の要望に合ったものではなくなってきています。
テレワークを支援する在宅勤務手当、従業員の実績に合わせた成果型の手当といったようにライフスタイルの多様化に合わせた手当が求められていることが理由として挙げられるでしょう。
理由2 働き方改革
働き方改革によって、同一労働同一賃金の実施に取り組む企業も増えています。同一労働同一賃金とは、同じ仕事に就いている場合は、正社員、非正社員に関係なく、同一賃金を支給するという考えです。
有期雇用労働者やパートタイム労働者、派遣労働者といった非正規雇用を選択する人も増えている昨今では、同一労働同一賃金を導入することで、正社員と非正社員間の不条理な待遇差を解消することを目指しています。
正社員だけに住宅手当を支給している企業は、同一労働同一賃金の条件を満たしていません。すでての従業員に住宅手当を支給する場合は、就業規則を変更しなくてはならず、手間がかかるという理由から廃止を選択する企業が増えています。
理由3 コストカット
日本経済団体連合会が実施した「2019年の福利厚生費調査結果」によると、法定外福利厚生に占める住宅関連費用の割合は以下のようになっています。
上記のように、住宅手当を含む住宅関連費用は法定外福利厚生の約48%を占めています。
正社員だけに住宅手当を支給している企業で同一労働同一賃金を導入する場合には、就業規則の変更にかかる手間だけでなく、コスト面の負担も大きくなります。
全従業員に対して住宅手当を支給した場合、上記よりも住宅関連費用の割合が大きくなるので廃止にしたい、コロナ禍において業績不振に陥っているので住宅関連の支出を見直したいという理由が考えられるでしょう。
住宅手当を廃止する際の注意点
ライフスタイルの多様化やコストカットといった理由から住宅手当を廃止する企業が増えているため、一度は導入したものの、自社も住宅手当を廃止しようと考えている企業もいるのではないでしょうか。
しかし、一度導入した住宅手当を廃止することは容易ではありません。場合によっては、トラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。
住宅手当を廃止する際は、トラブルを避けるためにも以下の3つの注意点を押さえておくことが大切です。
- 従業員の不満やトラブルにつながる
- 一方的な変更は不利益変更にあたる可能性がある
- トラブルにならないために代替措置を検討する企業も少なくない
各注意点について詳しく解説していきます。
従業員の不満やトラブルにつながる
住宅手当は住居費用に充てることで家計の負担が減るほか、必要な時には住居費用以外の支出にも使用できます。そのため、住宅手当があるという理由から入社を決定した人もいることでしょう。
会社都合で住宅手当を廃止にした場合、家賃やローン分の支出が増えてしまうため、従業員は家計の見直しを行わなくてはなりません。生活に支障が生じる恐れもあるため、従業員の不満は避けられないでしょう。
会社から十分な説明がないまま一方的に住宅手当を廃止にした場合、従業員の反発によって退職者が続出する可能性もあります。結果的に事業への影響を避けられず、トラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。
一方的な変更は不利益変更にあたる可能性がある
労働契約法の第9条では「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と規定されています。
上記は「不利益変更」と呼ばれ、会社が従業員に十分な説明がないまま、一方的に労働条件を変更する行為を禁止するものです。
不利益変更にあたらないようにするためには、従業員の同意を得た上で住宅手当を廃止する必要があります。話し合いの機会を設けて、全員の同意を得られるように尽力しましょう。
トラブルにならないために代替措置を検討する企業も少なくない
不利益変更を行ったとしても、罰則が適用されるわけではありません。しかし、不利益変更を受けた労働者から変更後の労働条件の無効、未払い賃金や慰謝料の支払いといった損害賠償請求がなされる可能性があります。また、廃止に不満を抱く従業員の相次ぐ退職といった事業への悪影響も想定されます。
従業員にとって住宅手当の廃止は減給と同じで、生活への支障が生じる可能性があるため、同意を得ることは容易ではありません。そこで、従業員の同意を得やすくするために代替措置を検討する企業も増えています。
トラブルを回避するためには、代替措置を検討しながら従業員と十分に話し合って穏便に解決することが必要不可欠と言えるでしょう。
住宅手当の具体的な代替措置とは
トラブルを回避しながら住宅手当を廃止するためには、他の企業が取り入れている代替措置の中から、自社で取り入れることができそうなものがないか探すことが重要です。
具体的には、「基本給や諸手当の増額や見直し」「福利厚生の充実」などが挙げられます。それぞれの代替措置を詳しく見ていきましょう。
基本給や諸手当の増額や見直し
従業員にとって、住宅手当の廃止は減給と同じです。そのため、減給分を補うような形で基本給や諸手当などを増額または見直せば、住宅手当の廃止についての同意を得られる可能性が高まります。
基本給や諸手当の増額や見直しの具体例として、以下の2つが挙げられます。
- 基本給に吸収
- 成功型報酬
基本給に吸収
現在支給している住宅手当を基本給に吸収した場合、支給総額には変更がないため、従業員の同意を得られる可能性が高いです。
しかし、支給総額は変わらないため、コストの削減には至りません。そのため、コストの削減が目的の場合は時間をかけて総支給額を調整していくことになるということを理解しておきましょう。
成功型報酬
成功型報酬とは、会社への貢献度合いに応じて支払われる報酬です。住宅手当は、支給条件を満たしていれば誰でも手当を得られるため、会社への貢献度合いは関係ありません。
しかし、成功型報酬の場合は、支給条件に貢献度合いが関係するため、「支給する=業績が良くなる」という好循環が生まれます。そのため、成功型報酬は有意義な支出といえます。
住宅手当が成功型報酬に置き換わるため、手当がまったくなくなる場合と比べると一定の理解は期待できます。しかし、基本給に吸収する場合と比べると理解を得にくいでしょう。
福利厚生の充実
福利厚生を充実させることによっても、基本給や諸手当の増額や見直しと同様の効果が期待できます。
福利厚生の充実の具体例として、以下の3つが挙げられます。
- 子どもに対する手当に代替
- カフェテリアプランの導入
- 借り上げ社宅に変更
子どもに対する手当に代替
子どものいる従業員は単身の従業員とは異なり、養育費や進学費用といった支出が増えるため、経済的な負担が大きくなります。そのような従業員に対して支給するのが、子ども手当です。
毎月決められた金額が支給されるため、子どもの進学や養育費などに充当すれば、経済的な負担を軽減できます。ただし、単身の従業員からの同意を得にくい点に注意してください。
カフェテリアプランの導入
カフェテリアプランとは、住宅手当や子ども手当のように一律の福利厚生を享受するのではなく、自分に必要な福利厚生のプランを自由に選択するというものです。
会社は従業員に一定の補助金もしくはポイントを付与し、従業員は用意されたメニューの中から自分に合った福利厚生を選びます。
公平性が高く、同意を得やすいというメリットの一方、導入に手間とコストがかかる点に注意が必要です。
借り上げ社宅に変更
住宅手当の場合、給与に上乗せされた住宅手当が所得として扱われるので、所得税や住民税、社会保険料などの負担が大きくなります。社会保険料は会社と従業員の折半で、会社の負担も大きくなるので、注意が必要です。
借り上げ社宅とは、会社が賃貸住宅を借り上げて、従業員に提供するものです。契約者は会社なので、会社が家賃を支払い、従業員の負担分については給与から天引きします。所得税や住民税、社会保険料などの負担を抑えられるため、住宅手当の廃止の同意を得やすいでしょう。
社宅は社有社宅と借り上げ社宅の大きく2つに分かれます。社有社宅は会社が不動産を所有するため、建物の経年劣化による修繕や管理といった手間がかかったり、家族構成や用途が合わなかったりする可能性があります。
借り上げ社宅の場合、会社が修繕や管理をしなくて済むほか、従業員が自分に合った場所、物件を選択することが可能です。そのため、近年では借り上げ社宅を選択する企業が増えています。
時代に合わせた手当の見直しが必要
ライフスタイルの多様化や働き方改革によって、現在支払われている手当がいまの時代に合わなくなっているケースも増えています。手当を有意義なものとするためには、時代に合わせた手当の見直しが必要です。
時代に合わせた手当にどのようなものがあるのかについて、詳しく説明していきます。
在宅勤務手当導入企業が増加
在宅勤務手当とは、在宅勤務をする従業員に対して支払われるものです。
コロナ禍において、感染リスクを軽減させるために在宅勤務(テレワーク)を選択した企業も増加しました。在宅勤務に切り替える際、通信回線の整備といったように自宅で仕事ができる環境に整える必要があるほか、電気代や通信費といった維持費も発生します。
上記の環境整備や維持費を給与に在宅勤務手当という形で上乗せすれば、従業員は所得が増えます。在宅勤務手当を支払う代わりに交通費や住宅手当などを廃止できるため、導入する企業が増えています。
大手企業でも手当充実の取り組み
明治ホールディングスは、賃貸補助や在宅勤務手当、子ども手当などの福利厚生が充実しています。特に、子どもの手当が充実しており、次世代育成手当、ベビーシッター利用額への補助、入学祝い金などがあります。
資生堂は、住宅手当や社宅、借り上げマンションタイプの独身寮など住宅支援が充実しているのが特徴です。カフェテリアプランでは、自己啓発や育児、介護、健康といった従業員のニーズに対応したメニューが豊富に用意されています。
借り上げ社宅導入をご検討中の企業様はご相談ください
借り上げ社宅の導入を検討している場合には、社宅代行サービスの利用をおすすめします。
社宅代行サービスとは、借り上げ社宅の導入に伴って発生する新規契約や更新、解約、トラブル対応、物件の手配、帳票の作成といった業務を会社に代わって行ってくれるサービスです。
LIXILリアルティの社宅代行サービスでは、社宅業務を一元化することにより最大80%の業務を削減できるほか、高品質で豊富なサービスをリーズナブルに提供しています。
社宅業務のコストダウンも図れるため、借り上げ社宅の導入を検討している企業様は気軽にご相談ください。
まとめ
福利厚生を充実させることによって、従業員の満足度の向上による人材の確保や離職の回避といった効果が期待できます。そのため、従業員の経済的な負担を軽減する住宅手当を導入した企業も多いです。
しかし、福利厚生を導入したものの、その内容がいまの時代に合っているとは限りません。ライフスタイルの多様化や働き方改革などによって求められる福利厚生の内容は変化しているため、いまの時代に合った内容に変更していく必要があります。
だからといって、現在導入している住宅手当を従業員の同意なく廃止することはトラブルの原因となるため、勝手に廃止することはおすすめしません。住宅手当に代わる代替方法を検討し、従業員としっかり話し合いながらよりよい方法を探っていきましょう。