はじめに
福利厚生の一環として、社宅制度の導入を検討している社宅管理業務の担当者の中には、社宅にかかる費用の会社の負担割合がどのくらいなのか気になっている人もいることでしょう。
社宅を導入する際に家賃をいくらに設定しなければならないという明確なルールはありませんが、何も考えずに負担割合を決めてしまうと、税負担が大きくなる可能性があるので注意が必要です。
この記事では、社宅の会社の負担割合がどのくらいなのか、節税効果を高める方法などについて解説します。
社宅の賃料は従業員が負担しないと節税にならない
借り上げ社宅の家賃は、会社または従業員のどちらが負担しなくてはならないと法律に明記されているものではありません。そのため、半分負担・全額負担などのように、会社ごとに負担割合を自由に決めることが可能です。
会社が負担する社宅の家賃は福利厚生費として経費計上できるため、会社の負担割合が大きいほど節税効果が得られると考えている人もいるかもしれません。しかし、実際はそうではありません。
社宅の家賃の一定割合を従業員に負担させなかった場合、会社が補助した家賃の全額または一部が給与として扱われるため、従業員は所得税と社会保険料、会社は社会保険料の負担が増えてしまうのです。
この一定割合のことを、賃貸料相当額と言います。賃貸料相当額について、詳しく見ていきましょう。
賃貸料相当額とは?
賃貸料相当額とは、以下の3つの合計額のことです。
・(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
・ 12円×(その建物の総床面積(㎡)/3.3㎡)
・(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
参照:国税庁「No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき」(2022年7月時点)
例えば、従業員に対して無償で社宅を提供する、賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている、家賃を現金で支給している(住宅手当)、入居者が賃貸物件を直接契約しているといったケースでは、給与として課税されます。
ただし、すべての無償貸与が課税対象となるわけではありません。看護師や守衛などのように、仕事上勤務場所を離れて住むことが困難な従業員に対して、仕事に従事させる都合上社宅や寮などを提供する場合は、「やむを得ない」という理由から無償貸与でも課税されない可能性があります。
社宅の従業員負担割合はどれくらいにすべき?
従業員から受け取っている家賃が賃貸料相当額以上であれば、給与として課税されません。
そのため、節税という観点から、周辺の賃料の半額以下である10~20%に設定されているケースが多い傾向です。しかし、会社によって大きく異なるため、相場の提示は難しく、一概にいくらと言い切れません。
賃貸料相当額の計算方法
社宅を導入することによる節税効果を高めるためには、給与として扱われることがないように賃貸料相当額を正しく計算できるようになることが大切です。
ここからは、従業員の社宅の場合と役員の社宅の場合の賃貸料相当額の計算方法について、詳しく解説していきます。
従業員の社宅の場合
国税庁が定めている、社宅の賃貸料相当額の条件を再確認してみましょう。
・(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
・ 12円×(その建物の総床面積(㎡)/3.3㎡)
・(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
参照:国税庁「No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき」(2022年7月時点)
賃貸料相当額を計算するには、建物と敷地の固定資産税の課税標準額が分からなくてはなりません。
固定資産税の課税標準額が分かる場合
従業員に提供している社宅の条件が、以下のような内容だったとします。
・月額家賃:10万円
・建物の固定資産税の課税標準額:400万円
・建物の総床面積:99㎡
・敷地の固定資産税の課税標準額:200万円
国税庁の賃貸料相当額の計算式に当てはめると、400万円×0.2%で8,000円、12円×99㎡÷3.3㎡で360円、200万円×0.22%で4,400円となり、合計金額は1万2,760円です。
賃貸料相当額である1万2,760円以上を従業員が負担していれば、給与として課税されません。
固定資産税の課税標準額が分からない場合
社有社宅の場合は会社が固定資産税を支払っているため、固定資産税の課税標準額がすぐ分かります。また、借り上げ社宅の場合でも、管理会社に問い合わせて大家さんから教えてもらうことができれば、固定資産税の課税標準額を使って賃貸料相当額を計算することが可能です。
しかし、管理会社が固定資産税を把握していない、管理会社が大家さんに確認したものの提供してもらえないといったケースもあります。そのようなケースでは、不動産を管轄している役所に賃貸借契約書を持っていくことで、固定資産税評価額等証明書を入手できます。
固定資産税の課税標準額に基づかずに従業員の家賃の負担割合を決定する際は、経済的利益が生じていないと考えられる範囲で設定しないと課税対象になるので注意が必要です。実際の家賃の50%に設定すれば経済的利益はないものとみなされますが、固定資産税の課税標準額を使って賃貸料相当額を計算したほうが、従業員の負担をさらに抑えられるでしょう。
役員の社宅の場合
役員報酬として一般的な従業員よりも多くの給与を受け取っている役員の場合には、豪華な住宅を社宅として借りることで節税効果を高めることが可能です。国税庁はそのような抜け道を防ぐために、役員に社宅を提供する場合の賃貸料相当額を計算する際は、住宅の規模によって計算方法を変化させています。
小規模な住宅の場合
小規模な住宅とは、以下のような条件に該当する住宅です。
・法定耐用年数が30年以下の場合:床面積が132㎡以下
・法定耐用年数が30年を超える場合:床面積が99㎡以下
役員に提供している社宅が小規模の場合の賃貸料相当額の条件は、従業員に社宅を提供する場合と同じです。
・(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
・12円×(その建物の総床面積(㎡)/3.3㎡)
・(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
参照:国税庁「No.2600 役員に社宅などを貸したとき」(2022年7月時点)
そのため、家賃の10~20%を役員が負担すれば、給与として課税されることはないでしょう。
小規模な住宅でない場合(豪華な住宅)
豪華な住宅とは、床面積が240㎡を超えるもののうち、取得価額、家賃、内外装の状況といった各種の要素を総合勘案して判断されます。床面積が240㎡以下のものであっても、一般的な住宅に設置されていないようなプールなどの設備や個人の嗜好を著しく反映した設備が備わっている場合は、豪華住宅に該当する可能性があります。
役員に提供している社宅が豪華な住宅の場合(社有社宅)の賃貸料相当額の条件は、以下の通りです。
・(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12% ※法定耐用年数が30年を超える場合は10%
・(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
参照:国税庁「No.2600 役員に社宅などを貸したとき」(2022年7月時点)
上記の合計額の12分の1が、賃貸料相当額になります。
仮に、建物の固定資産税の課税標準額が400万円、敷地の固定資産税の課税標準額が200万円だったとすると、400万円×12%で48万円、200万円×6%で12万円、48万円+12万円=60万円の12分の1で、5万円が賃貸料相当額になります。
他から借り受けた住宅等を貸与する場合
他から借り受けた住宅等(借り上げ社宅)を貸与する場合には、会社が大家さんに支払う家賃の50%の金額と小規模な住宅でない場合の賃貸料相当額のいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。
このように、役員社宅の場合は社宅の規模や種類によって賃貸料相当額の計算方法が異なるので、計算方法を理解しておきましょう。
詳しく計算方法を解説した別記事があります。詳しく知りたい方はこの記事をご覧ください。
>>役員及び従業員に社宅などを貸した際の賃料相当額の計算方法
水道光熱費の負担はどうするべきか?
社宅を利用するにあたり発生する家賃は、給与として課税されることを防ぐために賃貸料相当額を従業員が負担し、残りを会社が負担します。
敷金や礼金、共益費、保証料、前払家賃、引越し費用などの付随する支出は、基本的には全額会社負担です。では、住居を使用する際に発生する水道光熱費も会社負担で問題ないのでしょうか。
水道光熱費は生活費に分類される支出であるため、原則従業員負担になります。このように、社宅に関連する支出でも、生活費のように従業員が負担するのが一般的な支出については、会社負担にはなりません。
会社負担の内容は社宅管理規定で決めておく
社有社宅、借り上げ社宅に関係なく、社宅制度を導入する際は、トラブルの発生を防ぐために一定のルールを決めておく必要があります。これが社宅管理規定です。
社宅管理規定の様式は特に決まっていませんが、誰が社宅を利用できるのかという入居者資格、社宅使用料と負担方法、入退去手続などについては必ず明記しておく必要があります。
特に、社宅使用料と負担方法については、従業員負担分は給与から天引きされるため、明確にしておかなければ後で大きなトラブルとなるので注意が必要です。
月額賃料の負担割合、仲介手数料や敷金、礼金、水道光熱費、町内会費、火災保険料などを誰が負担するのか明確にしておきましょう。
社宅管理規定の作り方は別の記事で紹介しています。詳しく知りたい方はこの記事をご覧ください。
>>社宅管理規定を作成する7つのポイント!無料の雛形も公開!
社宅管理の負担を軽減させるLIXILリアルティ社宅代行サービス
借り上げ社宅を導入することになった場合、社宅管理業務の担当者は物件の手配や新規契約時の手続き、賃料の支払い業務、更新手続きや解約手続き、帳票作成、問い合わせ対応などの数多くの業務を担わなくてはなりません。
また、これらの業務は年間を通して均等というわけではなく、新規雇用や転勤といった従業員の入れ替わりが発生やすい4月や9月に集中するため、この時期の従業員の負担はかなり大きいです。
そこで登場するのが、社宅管理代行サービスです。社宅管理業務を専門とする業者がサポートしてくれるため、担当者の負担を軽減できます。
LIXILリアルティの社宅代行サービスは、「企業側の立場にたった社宅代行」をコンセプトに掲げています。社宅業務を一元化し、高品質で豊富なサービスをリーズナブルに提供することで、最大80%の業務負担の軽減、社宅業務のコストダウンを実現しています。
また、全国700社、2,500店舗を超えるネットワークで最適な物件探しをサポートしているので、社宅管理業務の負担を軽減したいと考えている方は、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
少子高齢化によって人口が減少していることから、企業は従業員を確保することが難しくなりつつあります。そこで、福利厚生を充実させることによって、新入社員の確保、従業員の離職を予防しようと取り組む企業が増えています。
社宅制度も福利厚生の一環として導入されるもので、従業員の住居にかかる負担を軽減することが可能です。しかし、いくら従業員の住居にかかる負担を軽減できるといっても、全額負担だと給与として扱われることで所得税や社会保険料などの負担が大きくなるので注意が必要です。
また、役員社宅の場合には、社宅の規模や種類によって給与として扱われる負担の水準が異なるため、賃貸料相当額がいくらなのかを明確にしておかなくてはなりません。
社宅管理業務の担当者は、物件の手配や新規契約時の手続き以外にも上記のような経理関係も担う必要があり、業務負担が大きいです。社宅代行サービスであれば、社宅管理業務を専門とする業者のサポートを受けられるため、業務負担の軽減やコスト削減、トラブルを未然に防ぎたいという方は、社宅代行サービスの利用を検討してみてください。