はじめに
従業員が社宅を退去する際、室内のハウスクリーニング費用が発生します。経理・総務担当者にとって、「このハウスクリーニング代はどの勘定科目で処理すべきか」「会社負担と個人負担の線引きはどうすればよいか」といった判断に迷うケースは少なくありません。
適切な勘定科目で処理を行わないと、会計上の不備につながるだけでなく、税務調査で「給与課税」とみなされる税務リスクが生じる可能性もあります。
本記事では、社宅退去時のハウスクリーニング代に関する適切な勘定科目をはじめ、費用負担の判断基準や税務上のリスク、トラブルを防ぐ実務フローを詳しく解説します。
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社宅のハウスクリーニング代における適切な勘定科目

社宅退去時に発生するハウスクリーニング代の経理処理において、まず確認すべき点が勘定科目の選定です。
結論として、社宅退去時のハウスクリーニング代は基本的に「修繕費」として処理するのが適切です。ただし、費用が発生した理由や金額の規模、契約形態によっては別の勘定科目を検討する場合もあります。
まずは基本となる修繕費の理由と、状況に応じて検討されるその他の勘定科目について解説します。
基本は「修繕費」で処理する理由
会計上、建物や設備の原状回復、または維持管理を目的として支出される費用は「修繕費」に分類されます。
退去時のハウスクリーニングが入居者の通常使用や経年劣化による汚損の修復、あるいは通常の使用を超える損傷を回復させる目的で行われる場合、物件の価値や機能を元の状態に戻す作業にあたるため、修繕費として計上するのが最も合理的です。
状況に応じて検討されるその他の勘定科目
基本的には修繕費処理が中心となりますが、社宅の運用状況や契約形態によっては、以下の勘定科目が選択されることもあります。
雑費
費用が非常に軽微であったり、一時的・突発的な清掃作業として処理したりする場合に選択肢となります。
ただし、継続的な会計処理の観点からは注意が必要です。金額が大きい場合や、定期的に発生する退去清掃をすべて雑費で処理することは避け、原則として修繕費等へ勘定科目を統一することが望ましいとされています。
福利厚生費
社宅規定に基づき、全社一律の福利厚生サービスの一環として会社がハウスクリーニング代を全額負担する場合、福利厚生費の枠組みで管理されることもあります。
ただし、制度の要件(全社員を対象としていること、負担額が常識的な範囲内であること等)を満たさない場合、従業員に対する給与とみなされて給与課税のリスクが発生するため注意が必要です。
外注費
専門の清掃業者へ業務を直接委託した場合や、物件の管理会社へ事務手数料・業務委託料として清掃代金を支払う場合に、「外注費」や「外注工賃」として処理されることもあります。
社宅クリーニング代の勘定科目を正しく選択するための判断軸

勘定科目を正しく選択し、適切に経理処理を進めるためには、発生した費用が以下のいずれに該当するかを正しく線引きすることが重要です。
通常損耗・経年劣化の回復(会社負担分)
日光による壁紙の日焼け・色あせや、家具の設置痕など、普通に生活していても発生する損耗は「通常損耗・経年劣化」に分類されます。これらは賃貸物件の資産価値維持や賃貸借契約の履行に必要な費用であり、企業側が負担すべき性質のものです。そのため、原則として「修繕費」(または福利厚生規定に基づく費用)として計上します。
入居者の故意・過失による損傷回復(本来は入居者負担)
タバコのヤニ汚れやニオイ、結露を放置したことによるカビの繁殖、不注意による床の凹みなどは「入居者の故意・過失」にあたり、本来は従業員個人が負担すべき性質の費用です。もしこれを合理的な理由なく会社が負担した場合は、「福利厚生費」としての妥当性を検証するか、従業員に対する「給与(手当)」としての課税処理を検討する必要があります。
退去時の通常ハウスクリーニング費
次の入居者を迎えるための全体清掃費用については、賃貸借契約書の特約条項や自社の社宅管理規定に基づき、「修繕費」または「外注費」で処理するのが一般的です。
借り上げ社宅と社有社宅における費用負担と処理の違い

社宅の形態には「借り上げ社宅」と「社有社宅」があり、契約関係や費用の流れるルートが異なるため、確認すべき条件や会計処理にも差が生じます。
借り上げ社宅の場合
借り上げ社宅とは、企業が不動産オーナー(貸主)と直接賃貸借契約を結び、従業員に転貸する形態です。不動産契約上の一次的な負担義務は企業にあるため、オーナーや管理会社から請求された退去費用(ハウスクリーニング代・原状回復費)のうち、通常損耗分は会社負担、従業員の故意・過失分は社宅規定に基づいて従業員へ求償(実費請求)するのが基本となります。
なお、企業が事前に支払っていた敷金からハウスクリーニング代が差し引かれて返還された場合は、差し引かれた金額分を「修繕費」等で計上し、差額の返還金を「差入保証金(敷金)」の減額として仕訳処理します。
社有社宅の場合
社有社宅とは、企業自身が物件を所有し、従業員に貸与する形態です。自社資産の維持管理となるため、専門業者に依頼した清掃代や修繕費用は企業が直接業者へ支払います(勘定科目は「修繕費」または「外注費」)。
従業員の故意・過失によって発生した修繕・清掃費用については、自社の社有社宅規定に基づいて従業員個人へ請求を行います。
借り上げ社宅と社有社宅の違いについては以下の記事でも解説しています。詳しく知りたい方はこちらも併せてご覧ください。
>>借り上げ社宅とは?メリット・デメリットをふまえた導入の流れと注意点
従業員負担がある場合の給与課税リスクと消費税の取扱い

退去費用を「会社が負担するのか」「従業員に負担させるのか」の整理は、税務リスクに直結します。誤った処理を行うと後から追徴課税を受けるリスクがあるため、以下のポイントを押さえておきましょう。
給与課税(現物給与)リスク
通常、従業員の故意・過失や善管注意義務違反によって発生した破損・汚損の修繕費、あるいは社宅規定で「個人負担」と定められているハウスクリーニング費用を会社が代わりに負担した場合、税務上は従業員に対する「給与(経済的利益の供与)」とみなされるリスクがあります。万が一、税務調査で給与認定された場合は源泉所得税の徴収漏れと指摘され、不納付加算税や延滞税が課される可能性があるため注意が必要です。
このリスクを回避するためのポイントは以下の3点です。
1. ガイドラインに沿った区分明確化
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」等に沿って、通常損耗(会社負担)と故意・過失(個人負担)の区分を客観的に明確にします。
2. 社宅管理規定の整備と厳格な運用
社宅管理規定に退去費用の負担区分を明記し、規定通りに従業員へ請求・回収を行います。
3. 労使協定の締結
従業員負担分を給料から天引きする場合は、労働基準法第24条に基づく「賃金控除に関する労使協定」をあらかじめ結んでおきます。
消費税の論点(課税・非課税の区分)
業者や管理会社に支払うクリーニング代や修繕費用は、作業やサービスの提供(役務の提供)に対する対価であるため、消費税の「課税取引(仕入税額控除の対象)」となります。居住用賃貸物件の「家賃」自体は消費税の非課税取引ですが、退去時の清掃・修繕という作業費用は「課税取引」として区別して仕訳を行う必要があるため注意してください。
退去トラブルを防ぐための社宅管理実務フロー

退去費用の負担や過大な請求をめぐるトラブルを未然に防ぎ、スムーズな会計処理につなげるための実務フローは以下の通りです。5つのステップに沿って確実に手続きを進めましょう。
STEP1:受付・契約内容の確認
従業員から退去通知を受け取ったら、賃貸借契約書の特約条項(ハウスクリーニング特約の有無や負担内容)および自社の社宅管理規定を確認します。
STEP2:現地確認と証拠化(立ち会い)
退去時には社宅担当者または委託業者が現地に立ち会い、室内状況を細かくチェックします。入居前から存在した傷・汚れとの差異を確認し、写真や動画を撮影して客観的な証拠を残しておくことが大切です。
STEP3:関係先連携と見積内容の精査
管理会社やオーナーから届いた見積書・精算書の内訳を精査します。「施工範囲が過大でないか」「単価が相場から逸脱していないか」「経過年数(耐用年数6年などによる減価償却)が考慮されているか」を国交省ガイドラインに照らしてチェックします。
STEP4:入居者(従業員)フォロー
従業員負担が発生する場合は、根拠となる明細を示して丁寧に説明します。外国人従業員が居住している場合は、トラブルを防ぐため多言語による資料提供などの配慮を行いましょう。
STEP5:記録管理・決算処理
見積書、請求書、立ち会い記録、写真データ等の関連書類を社内保存し、決定した処理方針に基づいて速やかに経理上の仕訳を行います。
社宅管理業務を効率化したい方へ

社宅の退去対応は、単に勘定科目の選定や仕訳作業を行うだけに留まりません。賃貸借契約書の精査、退去立ち会いの日程調整、見積書の妥当性査定、従業員への説明、オーナーや管理会社との交渉など、極めて多岐にわたる煩雑な実務が発生します。
特に拠点数や管理社宅数が多い企業では担当者の業務負荷が膨大になりやすく、費用査定のノウハウ不足から、不当・高額な退去費用をそのまま支払ってしまうケースも少なくありません。
こうした社宅管理業務の負担軽減と退去コストの最適化を同時に実現するソリューションとして、「社宅代行サービス」の利用がおすすめです。
社宅代行サービスの特徴については以下の記事で解説しています。詳しく知りたい方はこちらも併せてご覧ください。
>>社宅代行サービスとは?メリット・デメリットや選び方を解説
>>借り上げ社宅の運用を社宅代行会社に委託するメリットや費用、選び方
バックオフィス業務を革新する「LIXILリアルティ」の社宅代行サービス
LIXILリアルティの社宅代行サービスでは、企業の社宅運用を強力にバックアップします。主な導入メリットは以下の通りです。
原状回復費用の適正査定によるコスト削減
不動産の専門スタッフが、管理会社やオーナーから提示されるハウスクリーニング代や修繕見積を「原状回復ガイドライン」に基づいて厳格にチェックします。不当・過大な請求を排除し、会社負担コストを最適化します。
繁雑な社宅管理業務の一括アウトソーシング
新規の物件探し・契約締結から、毎月の家賃支払、更新手続き、退去時の敷金精算・解約手続までをワンストップで代行。人事・総務・経理担当者の業務量を大幅に削減します。
社宅規定の整備・運用サポート
費用負担のルール化や規定の見直しをサポートし、従業員とのトラブル発生を未然に防止します。税務・会計上の処理方針に沿った明確な運用基盤を構築できます。
自社内での退去対応や査定作業に限界を感じている場合や、管理フロー全体の見直しを進めたい場合は、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
社宅退去時のハウスクリーニング代は、原則として「修繕費」で処理するのが一般的です。ただし、従業員の故意・過失による損傷か通常損耗かによって会社負担と個人負担の境界線が異なり、会社負担の範囲を誤ると給与課税などの税務リスクにつながる可能性があります。
ガイドラインに沿った費用査定や社宅規定の整備、立ち会いによる証拠化などの実務フローを徹底し、適正な管理を行いましょう。自社での対応や査定に不安がある場合は、専門ノウハウを持つ社宅代行サービスの活用を検討するのも有効な手です。
